計測システムの概要
生簀に蓄養殖されているクロマグロの尾数を濁りの影響を受けず非接触で正確に計測できる計測システムの開発は世界初です。(みなと新聞:2017年4月26日付け)
独自に開発したマルチ送受波ソナーが作る「音響カーテン」を通過する単位時間当たりの尾数とマグロの体内に挿入されたコード化ピンガーから得られる遊泳速度から尾数を割り出す革新的計測システムであります。
私たちは世界標準の尾数計測法の確立を目指しています。
コア技術
私たちのコア技術は、既存音響機器メーカーによる通常の魚探機を用いず、送受波器の素子開発からソフトウエアーまでを一貫して開発した水中音響計測システムとゴールドコードを持つピンガーを統合した計測システムにあります。
すなわち、周波数は高分解能が可能な高周波数帯の460 kHz、マグロの個体識別が可能な距離分解能を持つパルス幅として0.064 ms(距離分解能4.8cm)、一断面を見落としなく探査できるためのビーム幅として5度、パルス発射回数を20回 /秒とし、これら要件をすべて満たす小型送受波器(50×40×25 mm)を開発し、これらの機能要素を持つ送受波器を扇形状に15個配置したマルチ送受波ソナー装置を完成させました。
このマルチ送受波ソナーを、生簀の内側に設置し、生簀の一断面をいわゆる「音響カーテン」で仕切り、この「音響カーテン」を通過する単位時間当たりの周回時間を掛け合わせることにより、生簀内の総尾数を求める方法であります。
従って、今までの単位体積当たりの密度を生簀容積全体の空間領域(Space domain)に引き延ばす方法ではなく、魚の行動に着目した時間領域(Time domain)に引き延ばす推定法ということになります。
詳しくは 日本水産工学会誌, 水産工学, 54(3), 215-221(2018) 「マルチ送受波ソナーとピンガーを用いた生簀クロマグロの計数手法の開発」を参照してください。
既存技術との比較
水中音響計測機であるマルチ送受波ソナーとゴールドコードを持つピンガーを同じ研究チーム内で開発し製作できる組織は世界でも見当たりません。それは、既存音響機器メーカーはソナーや魚探機を製作・開発しますが、ピンガーの開発はしません。また、その一方でピンガーを製造販売する会社はソナーや魚探機を製作・開発はしません。
すなわち、他のメーカー企業は私たちが持つ技術の一つしか持たないために、これらの一体的に開発し、それを統合したシステム(ソフトウエアーも含む)として作りあげることができなかったわけです。従って、今まで水中音響機器メーカーが開発してきた計測法は、既存の魚群探知機もしくはソナーを用いて、生簀内の魚群密度(単位体積当たりの尾数)を計測し、一方で1尾当たりのTS(ターゲットストレングス)を測定し、その両者から生簀内の総尾数を推定するという密度推定法を用いてきました。この方法の欠点はスケールファクターであるTSの値が魚の体長や遊泳姿勢によって大きく異なること、さらに単位体積当たりの密度を生簀容積全体の空間領域(Space domain)に引き延ばす方法であるため、原理的に計数精度を上げることができません。これはソナーや魚探機の音響機器だけの計測では、この方法による計測方法や解析方法しか考えつかなかったことにもよります。従って、過去いくつかの音響機器メーカーによる生簀用魚探システムの開発が行われてきましたが、いずれも実用化には至っていませんでした。
一方、他の方法として、水中テレビカメラ法があげられますが、カメラ計測では水中視野や視認距離が限られ、低照度や濁りの影響がある場合には、計測が困難となります。
また、密集した魚群を対象とする場合では、遊泳個体の重なりのため個体識別が極めて難しく、正確な個体数が計測できません。このためカメラ計測が行える現場環境は極めて限られたものとなっており、ここでも多くの問題を抱えています。